胸部の腫瘍
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肺がん

肺は胸腔にあり右肺は大きく3つ、左肺は2つに分かれます。空気の通り道である気管は左右の気管支に分岐し、さらに分岐を繰り返し、細気管支、呼吸細気管支、そしてガス交換を行う肺胞という部分まで細かくなります。気管支から肺に発生した悪性腫瘍が肺がんです。最近では太い気管支に発生する中心型肺がんより末梢に発生する肺がんが増加しています。

症状は全くなく検診などで偶然発見される場合もありますが、頑固な咳や痰、血痰、喀血、胸痛、背部痛、息切れ、発熱、食欲低下、体重減少、などの多彩な症状が認められます。これらの症状が続き改善してこない場合は医療機関の受診をお勧めします。他にも胸膜にがん細胞がひろがり胸水の貯留により息苦しくなる(がん性胸膜炎)、心臓の近くの太い静脈が圧迫され顔面や上肢が浮腫む(上大静脈症候群)、心臓をつつむ膜にがん細胞が拡がってしまう(心タンポナーデ)、骨に転移したがんが脊髄を圧迫する、脳に転移したがんが頭痛や麻痺などを引き起こす、声帯を支配する神経にがんが浸潤し嗄声になる(反回神経麻痺)、肺の一番上に発生したがんが肋骨の上部や腕にいく神経に浸潤し肩や腕の痛みやしびれが出る、カルシウムやナトリウムなどの電解質を調節するホルモンを分泌し電解質異常が起きる、などの多くの症状がみられることがあります。

診断は胸部X線検査をまず行い、異常が疑われた場合は胸部CT検査を行います。CTでは腫瘍の存在部位や大きさ、周囲の正常組織との関係を確認いたします。確定診断には病理検査が必要です。この検査は肺がんに特徴的ながん細胞やがん組織を顕微鏡で観察して検出する検査です。気管支鏡(ファイバースコープ)を用いて気管支の内腔を観察し、病理検査に必要な検体を採取します。胸壁から病変が近い場合は経皮的に針で検体を採取する場合があります。痰の中にがん細胞が検出される場合もあります。

がんがどこまで拡がっているか調べるために胸部CT以外に腹部、頭部のCTやMRI、PET-CT、骨シンチなどの検査を行います。血液検査では腫瘍マーカー(CEA、CYFRA、SCC、NSE、ProGRPなど)が上昇する場合もありますが補助診断として利用されます。

肺がんは顕微鏡でみた形態がいろいろなタイプのがんに分かれますが、それを組織型といいます。組織型は大別して小細胞がん、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんに分類されますが、小細胞がん以外を非小細胞がんと臨床的に区別しています。

肺がんの治療は病気の進行度(病期)とがんの組織型、患者さんの肺の状態や全身状態、合併症などにより個別に検討する必要があります。病期とは原発巣の大きさや拡がり(T因子)、リンパ節転移(N因子)、遠隔転移(M因子)により決まります。

非小細胞がんの場合はI期、II期でがんの拡がりが限られた範囲に限局している場合は手術が可能かどうかを外科医とともに検討します。手術が可能な場合はどういう手術を行うかも検討いたします。また手術後の病理検査でがんの拡がりが確定診断しますので、その結果に応じて化学療法を併用する場合もあります。

III期のうち肺がんが局所への進展が限られた範囲の場合は化学療法と放射線照射を組み合わせた治療を行います。III期の一部やIV期でがんがひろく進展し転移している場合は、化学療法が治療の中心となります。化学療法は全身状態がよければプラチナ製剤(シスプラチン、カルボプラチン)と新規抗がん剤(ペメトレキセド、ドセタキセル、パクリタキセル、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、S-1など)を1種類ずつ組み合わせて3~4週毎に行います。またがんの組織に栄養を供給する異常血管の新生を阻害し正常な血管に戻す薬(血管内皮成長因子阻害薬、ベバシツマブ)を併用する方法も一部のがんには腫瘍縮小効果を示し、症状の緩和に非常に有効ですので、がんの組織型や拡がりに応じて投与いたします。副作用に問題がなく効果があれば最初の治療を4~6回繰り返して行います。最近ではがんの組織型により効果が出やすい薬の組み合わせや、初回治療の後に維持療法といいがんが増悪するまでの期間1種類の抗がん剤を投与する治療法、がんの発生や進展に関与する遺伝子に対する分子標的治療薬の効果が期待できる場合など、が判明してきておりますので治療を始める前の検査がより重要となっています。日本人に多いEGFR遺伝子変異をもつ肺がんに対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(ゲフィティニブ、エルロチニブ)の有用性は証明されており、EML4-ALK融合遺伝子をもつ肺がんに対して現在開発治験中のALK阻害薬(クリソチニブ)も有用性が期待されております。

小細胞がんは腫瘍の増殖、転移が早いのですが、化学療法や放射線照射の効果が出やすいのが特徴です。限局型の場合は化学療法(シスプラチン、エトポシド)と放射線照射の併用療法、進展型では化学療法(シスプラチン、エトポシド、もともとの肺に肺線維症が無い場合はシスプラチンとイリノテカンという組み合わせも選ばれます)が標準的治療となります。

当院では化学療法のレジメンはすべて院内の委員会で審査し登録しております。個々の患者様へ投与する薬剤や総投与量を確認する事は安全な医療の提供のために必要な事です。抗がん剤による治療を始める前に複数回の確認作業を行いますので、ご協力をお願いいたします。

縦隔腫瘍

胸腔内で左右の肺の間の部分を「縦隔」と呼びます。ここには気管、心臓や大血管、食道、リンパ組織、胸腺、神経などの多様な臓器がおさまっている「場所」です。この場所にできた腫瘍を「縦隔腫瘍」と呼びます。症状がなく検診や他の疾患の治療中に発見された場合や、腫瘍が周囲に拡がり、息苦しい、胸が痛い、などの症状が出現し医療機関を受診され発見される場合もあります。胸部X線、胸部CT、胸部MRIなどの画像診断を行い、腫瘍の存在部位や周囲組織との関係を評価します。

また縦隔腫瘍といっても、それぞれのがん組織が異なっております。組織に応じて治療法を選択するため、腫瘍の一部を採取(生検)し病理診断を行う確定診断が必要になります。良性から悪性までいろいろ腫瘍が発生しますが、部位別で頻度が高いものは前縦隔には胸腺腫、胸腺がん、胚細胞腫瘍、中縦隔には悪性リンパ腫、気管支嚢胞、後縦隔には神経原性腫瘍、上縦隔には甲状腺腫、などです。

治療法は良性のものには原則として手術、悪性の場合は外科手術、化学療法、放射線治療を病理組織型や進行度(病期)に応じて組み合わせ、最も効果があると期待される治療法を呼吸器内科医、呼吸器外科医、放射線治療医が検討したうえで、主治医がご説明いたします。

 

悪性胸膜中皮腫

  • 胸腔内にある肺、縦隔及び胸壁の内側は胸膜で覆われています。この表面にあるのが中皮細胞です。中皮からでる腫瘍は悪性、良性いずれもできますが、悪性のものは限局しているもの(限局性)から広範囲に拡がっているもの(びまん性)まであります。腹腔内にも腹膜におおわれており、腹膜中皮腫が発生しますが、この項では主に悪性胸膜中皮腫について要約します。悪性胸膜中皮腫の原因としてアスベスト(石綿)の吸入が考えられています。すべての石綿が原因になりうると考えられていますが、特にアモサイト(茶石綿)とクロシドライト(青石綿)ではリスクが高いと言われています。吸入後、平均して40年程度すると発症すると言われており、1970年代にアスベストの輸入量が多かった事を考慮すると、今後も発症者が増加すると予想されています。労働中にアスベストを吸入しただけではなく、その家族や、アスベストを扱う事業所周囲の住民にも発症者が報告されています。
  • 悪性の胸膜中皮腫は発生早期には症状があまりなく、早期の診断が難しい疾患です。その後、進行すると胸痛が生じたり、胸水が貯留したり胸膜が広い範囲に厚くなるため呼吸困難をきたしたりします。
  • 胸部X線や胸部CTで胸膜の肥厚や胸水が認められれば、胸水や胸膜の細胞や胸膜の組織を、経皮的に針を用いて採取します。悪性胸膜中皮腫に優位に認められるのは縦隔側胸膜や葉間胸膜への浸潤、1cm以上の胸膜肥厚、肺全体を絞厄するような進展、結節上の胸膜肥厚であると言われています。また胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)や肺線維化などの所見の診断にもCTは有効です。しかし、悪性胸膜中皮腫の場合でも一度の病理検査では悪性の細胞が常に採取されるとは限らず、状態に応じて胸腔鏡検査(肋骨と肋骨の間を切開し、胸腔鏡を挿入し胸腔内を観察し組織を採取します)が必要になる場合もあります。得られた組織を病理医が観察し悪性の細胞や組織を認めた場合は、その細胞が悪性胸膜中皮腫由来のものか、それとも他の悪性腫瘍(肺がんや他の臓器から転移性のもの)によるものかの鑑別が必要になりますが、標本の免疫組織化学染色などを用いて慎重に診断を行います。病理診断が確定したら、病巣の拡がりを調べるために、胸部・腹部・頭部のCTやMRI、骨シンチ、などを行います。
  • 病期
     I期 :片側の胸膜内に限局している
     II期:胸腔内のリンパ節転移を伴っている
     III期:胸壁・縦隔・反対側の胸膜・まで拡がっている、横隔膜を貫いているもの
     IV期:血行性の転移を伴っている
    I期の一部(限局型胸膜中皮腫)は外科療法が行われる場合がありますが、II期以上に進行していて手術で取りきることができない病状の場合は、患者さんの全身状態や希望に応じて、症状を緩和する目的で緩和ケアを中心に行うか、対症的な放射線照射や、全身化学療法を行います。現在、悪性胸膜中皮腫にたいしてはシスプラチンとペメトレキセドの併用療法が有効であると報告されていますので、全身状態に応じて化学療法を行っております。
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